焦点部分群

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移送

可換群は「移送がべき乗になる群」の例(参照)ですが、そのような移送の作り方として焦点部分群で割った剰余群への移送があります。


$G$の部分群$H$が与えられたとき、\[H^\ast=H^\ast_G=\mathrm{Foc}_G(H):=\langle h^{-1}h'\mid h'=h^g, \ h,h'\in H, \ g\in G\rangle\]$H$の焦点部分群という。

定理1: $H^\ast\lhd H$で、$H/H^\ast$は可換群である。

証明: 任意の$h,h'\in H$に対して$[h,h']=h^{-1}h'^{-1}hh'=h^{-1}h'^h\in H^\ast$なので、$[H,H]<H^\ast$が成り立つ。「$K<H<G, K\lhd G, H/K$が可換ならば$H\lhd G, G/H$も可換(ここの命題7)」なので主張が従う。[定理1の証明終わり]

定理2: $H^\ast<K<H$を満たす部分群$K$に対して、($K\lhd H$で、$H/K$は可換群なので)移送を$V\colon G\to H/K$と書くと、任意の$h\in H$に対して$V(h)=h^{[G:H]}K$が成り立つ。

証明: (方針:移送の定義は$H<G$の右剰余類の代表系$T$のとりかたによらない(証明)ので、計算が上手くいくような$T$を定義する)

まず、$x\in \langle h\rangle$に対して$(tH)^x:=x^{-1}tH$とおくと、これは$\Gamma=\{tH\mid t\in G\}$上の作用である。1

この作用の軌道を$O_1,\ldots,O_s$と書き、代表元$t_iH\in O_i$をとる。すると、$e_i:=|O_i|$として\[O_i=\{t_iH,ht_iH,h^2t_iH,\ldots,h^{e_i-1}t_iH\}\]であり、$t_iH=h^{e_i}t_iH$が成り立つ。つまり$(h^{e_i})^{t_i}\in H$である。

これと$h^{e_i}\in H$をあわせると、$(h^{e_i})^{-1}(h^{e_i})^{t_i}\in H^\ast<K$つまり$(h^{e_i})^{t_i}K=h^{e_i}K$(※)が成り立つ。

さて、$T=\{h^mt_i\mid i=1,2,\ldots,s, \ m=0,1,\ldots,e_i-1\}$を代表系とする移送を計算したい。

  • $h\cdot h^m t_i=h^{m+1}t_i\cdot 1$$m=0,1,\ldots,e_i-2$
  • $h\cdot h^{e_i-1}t_i=h^{e_i}t_i=t_i(h^{e_i})^{t_i}$

なので、

\[V(h)=\prod_{i=1}^s\left((h^{e_i})^{t_i}K\cdot \prod_{m=0}^{e_i-2}K\right)=\prod_{i=1}^s (h^{e_i})^{t_i}K\]

である。ここで(※)より

\[V(h)=\prod_{i=1}^s h^{e_i}K=h^{\sum_i e_i} K=h^{|G:H|}K\]

となり、主張が従う。[定理2の証明終わり]

系3: 定理2の状況で、さらに$|H/K|$$[G:H]$と互いに素なら、移送$V\colon G\to H/K$は全射であり、$H\cap \ker V=K$が成り立つ。

証明: $a[G:H]\equiv 1\pmod{|H/K|}$なる整数$a$をとると、任意の$hK\in H/K$に対して$V(h^a)=h^{a[G:H]}K=hK$なので$V\colon G\to H/K$は全射である。

$H\supset K,\ \ker V\supset K$は定義から従う。逆に$h\in H\cap\ker V$とすると$K=V(h)=h^{[G:H]}K$なので$h^{[G:H]}\in K$、よって$h=h^{a[G:H]}\in K$である。[系3の証明終わり]


  1. ここでは「群論」(鈴木通夫 著)に倣って右作用なので、左側から積をとると$-1$乗がつきます… [return]